セラピストにとっての感情労働とは

「感情労働」という言葉がメディアで取り上げられることが増えてきました。

感情労働は、アメリカの社会学者であるアーリー・R・ホックシールドが提唱した考え方で、定義としては、「自分の感情を誘発、または抑圧することを職務にする、精神と感情の協調が必要な労働」とされます。

http://www.toushin-1.jp/articles/-/5639より引用

感情を誘発したり、抑圧しながら働く・・・?

理学療法士もめちゃめちゃ感情労働じゃないですか。どうりで仕事終わると変な疲労感が残ると思った(笑)

ということで今日は感情労働のお話です。

感情を押し殺してはたらくこと

感情労働が多いといわれる職種は、医療関係者・キャビンアテンダント・コールセンタースタッフなどが当てはまるそうです。

参考:BitzHint

確かにコールセンターの人なんて、クレーマーから何をいわれても勝手に電話を切るわけにはいかないし、想像するだけでストレスたまりそうですね。

何を隠そう若かりし頃、私もコールセンターで一時期バイトしてたことがあります。料金を督促する電話をかけなければいけない部署だったので、・・・それはもう。しっかりストレス溜まってましたね、今思い出しても。理不尽なことを大きな声でいう人はいつの時代にも一定数いるものです(笑)

さて、実は理学療法士は、一対一で患者さんのリハビリをする以外にも、けっこういろいろな人と関わる仕事です。ぱっと考えつくだけでも患者さんの家族・医師・看護師をはじめとする専門職スタッフ、ケアマネージャーなどなど。

でもやっぱり一番感情労働の要素が大きいのは、患者さんとの関わりでしょう。

セラピストの感情労働とは

私が考えるセラピストの感情労働とは、「患者さんに寄り添うこと」です。そういう仕事なんだから当然じゃないかと思われると思いますが、いったん落ち着きましょう(笑)

表面上の態度や言動だけでなく、その人に本当に心から寄り添うのってかなり精神的パワーいるんですよ。同じことは医師や看護師にも当てはまりますが、リハビリスタッフって基本的に一対一で向き合って話す時間がすごく多いんですよね。毎日担当が変わる看護師さんとはその点少し関わるスタンスが違います。

リハビリテーションとは基本的にその方の存在を受け止める、肯定したうえで取り組んでいく作業です。ですから、ただ運動をしましょう・歩いてみましょう、というだけでは仕事になりません。一人一人の患者さんの身体に触れて、お話をして、育ってきた環境や家族背景、価値観、死生観・・・かなり個人的に深いところまでコミットしていく(いかざるを得ない)仕事です。

当然のことですが、そのような深い関わりの中で体調が回復し退院なさる方もいれば、そうではない方もたくさんいます。特にここ2−3年、私はがんのリハビリテーションに関わることが多く、どんどん体調が悪化して、歩けなくなって・・・という方も数多くいらっしゃいました。

急性期病院で働いていると、自分がそのように深く関わってきた方が急変したり、お亡くなりになることもはっきり言って日常茶飯事です。患者さんに寄り添うほど、その方に個人的に深くコミットしているほど、そのような場合の感情のコントロールは難しくなってきます。いわゆる(その患者さんに自分の気持ちが)「持っていかれる」状態です。これは医療関係の仕事をしている方なら、多かれ少なかれ誰しも経験があるのではないでしょうか。

もちろん人間的にそういった感情の揺れは自然であり、極端に抑圧すべきものではないと思います。ただし職業上、悲しいとしてもメソメソ泣いてるわけにはいきません。いったんその気持ちを保留して、次の仕事に取り掛かる、というようなかなり繊細な感情コントロールが求められる仕事です。まさに感情労働。

スイッチを入れる縦パス

横のパスばっかりじゃ攻撃にはなりません、大事なのは縦パス。・・・急にサッカーの話かと(笑)

サッカーを見ていると、よく横パスでゆっくりつないでいる展開から縦パスが入って急に攻撃のスピードが上がり、「スイッチを入れるパス」とか解説の人がよく言ってますよね。あれはまさしく感情の切り替えでも同じことが言えると思うんです。

よく新人のスタッフから、家に帰ってもずーっと自分の患者さんのことを考えてしまって、鬱々してしまって・・・というような悩みを相談されることがあります。

真面目な人ほどそういった感情のループにはまりやすい気がします。

「悲しみ」「虚無感」「喪失感」などなど、ネガティブなベクトルばかりに感情が向いているところを、ポジティブな感情に持っていくためには、サッカーにおける縦パスのような意識的な「切り替えのきっかけ」が必要です。PT的に言うと「トリガー」でしょうか(笑)

この「きっかけ」は、小さいものから大きいものまで、いろいろな引き出しを持っておくことが重要だと思います。ちなみに私の場合は、「コーヒーを飲む」「同僚とくだらない話をする」といったその場でできるものから、「子どもと遊ぶ」「映画を見る」「帰りに30分くらい歩く」といったある程度時間をかけるものまでいろいろあります。

特にこの中では子どもスイッチが強烈ですね。

パパがどんな気分であろうが、家に帰ったら子どもは「一緒に遊ぼう!」と全精力で向かってきますので、気がついたら気分が転換しています。

そういう意味では変に一人になって内省する時間が多い方が、気持ちの切り替えって難しいかもしれませんね。うじうじ悩んでしまうタイプの方は、早めに家庭を持つことをおすすめします(笑)

リハビリテーションという仕事の性質上、その仕事自体が感情労働の側面を持つのはある意味致し方ないことでしょう。

逆にそうしたストレスを意識しつつ、その場その場で適切なスイッチを使って感情のレイヤーをスパッと切り替えるセンスが、第一線で長く働き続けるためには重要なのではないでしょうか。

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